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第1部:茂木健一郎が語る「脳と心の謎」

講師:ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー 茂木健一郎氏
創造性は経験×意欲によって引き出される
私はいま、ソニーコンピュータサイエンス研究所で脳の研究をしていますが、取り組んでいるいろいろな課題の中のひとつが「創造性」についてです。この創造性を研究するうえで重要なキーワードが、セミナーのテーマに掲げた「アハ体験」です。
「アハ体験」とは、簡単に申し上げると、0.1秒で世界は変わって見える、ということです。元々はドイツのゲシュタルト心理学で使われていた「アハ=エアレープニス」から派生した「aha! Experience」という脳科学用語のことで、何かに気づいた瞬間、いわゆる“ひらめき”の瞬間の感覚のことをいいます。
例えば、アイザック・ニュートンは、リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見しました。この瞬間、彼の頭の中では世界が大きく変わったことでしょう。これがアハ体験なんです。それまで地上のものが落ちるのは当たり前だと思っていたのが、「空の月が地球の周りを周っているのは、(地球が月を引っぱっているから、地球に向かって)落ち続けているんだ」という発見をしたのです。素敵な飛躍だと思いませんか?普段はボーと歩いている人だったみたいですが、そのときだけはなぜか気づいたんですね。この感覚こそがアハ体験です。
アハ体験は、いつみなさんの人生に訪れるかわかりません。アハ体験や創造性は、脳の記憶のメカニズムのひとつです。いろいろなことを経験すると脳の中でその経験が蓄積されて創造性へと結びついていきます。よく創造性というのは若者だけの特権だといいますが、これは違います。なぜかというと、経験が蓄積されるほど創造の種も増えるからです。
脳科学の仕組みからいうと、脳の側頭葉に経験が蓄積され、この組み合わせや結びつきの変化によってひらめきが生まれます。そして、ひらめきの発想を引き出すのが前頭葉でつくられる意欲です。つまり、創造性とは「経験×意欲」、経験と意欲の掛け算によって生み出されています。したがって、経験が蓄積されればされるほど、新しいアイデアは生まれやすくなります。「年齢とともに創造性が落ちる」と言われますが、経験はどんどん蓄積されるわけですから、意欲が足りなくなるからにすぎません。意欲を持っていればパブロ・ピカソや岡本太郎のように、何歳になっても創造性は生み出せる、というわけです。
なぜ、このような話を紹介するかというと、いまや創造性(イノベーション)が富をつくる時代になったからです。インターネットが現在ほど普及しておらず、さらに銀行業のように非常に信頼性を求められるビジネスに活用することへの危惧が強かった時代に誕生したソニー銀行も、イノベーションによって成功した一例といえるでしょう。
- ソニー銀行預金残高1兆円セミナー:2008年3月25日「〜「アハ体験」で出会う新たな世界〜」(はじめに)
- 第1部:茂木健一郎が語る「脳と心の謎」
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