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第1部:ピーター・フランクルが語る欧州経済
講師:ピーター・フランクル氏

ピーター・フランクル氏略歴
1953年ハンガリー生まれ。1971年国際数学オリンピックで金メダル獲得。1977年オトヴォス大学 大学院修了(博士号取得)後、1979年フランスに亡命。1988年から日本在住。
現在、算数オリンピック専務理事、国際数学オリンピック・日本チームコーチ。日本ジャグリング協会名誉理事。元早稲田大学理工学部客員教授。NHK教育『マテマティカ』、日本テレビ『世界一受けたい授業』等出演。
著書:「数学放浪記」(晶文社)「頭のよくなる本」(WAVE出版) 「ピーター流らくらく学習術」「ピーター流外国語習得術」(岩波ジュニア文庫)「僕が日本を選んだ理由」(集英社文庫)など多数。

<ジャグリングを披露するピーター氏>
日本とハンガリーには共通点がいっぱい!
僕は欧州の小国ハンガリーで生まれました。日本人は自分の国のことを「狭い国だ」と言います。しかし実は、ヨーロッパは55ヶ国もありますが、ほとんどは日本より面積は小さいのです。イギリスの面積は、日本の3分の2、欧州最大の経済大国ドイツも日本より国土は小さいのです。僕の故郷ハンガリーは日本の4分の1の大きさしかありませんし、人口規模も1,000万人台と、東京都よりも人口が少ない国です。
日本とハンガリーには共通点がいくつかあります。ハンガリー語と日本語には、意味も発音も同じ言葉があります。「ミズ」と「シオ」です。ほかにもいろいろな同義語があります。言語学的にもハンガリー語と日本語は、ウラル・アルタイ語族に分類されています。
もうひとつの共通点は、ハンガリー語では、日本語と同じく自分の名前を姓名の順番で表記します。ですから、ハンガリーのパスポートでは、僕は「フランクル・ピーター」と表記されています。ハンガリーの新聞では、日本の総理大臣は「Fukuda・Yasuo」と日本語の順番で表記されます。
「脱亜入欧」ならぬ「脱米入欧」を目指すべき
では、どうして僕はピーター・フランクルと英語の順番で表記しているのか?それは日本人に合わせているため。多くの日本人は白人を見かけると英語で話しかけようとします。外国人がいれば英会話のできる千載一遇のチャンスだからです。
日本人の好きなことわざに「一期一会」というのがあります。また、似たような意味で「袖ふり合うも多生の縁」ということわざもあるように、昔の日本人は出会いを大切にしていました。それにはコミュニケーションが何よりも重要になりますが、最近は共通の言葉で語り合うよりも、英会話の勉強になった方がいいと思う人が多いようです。非常に寂しい傾向です。
グローバル化の進んだ今の日本では英語がちょっと堪能なだけではそれほどの特技にはなりません。ところが、いまだにみんな英会話を特別視しています。僕は数学者で、数学の国際会議にも毎年必ず行っていますが、そこには、例えば旧ソ連の共和国だったアルメニアなどの国から立派な数学者、天才的な学者が参加します。彼らの大半は英語を全然話せませんが、出席者たちはみんな一所懸命に講義の内容を聞いたり、理解しようとしています。言葉ではなく、内容で勝負するという時代になりました。ただ英語だけできればいい、というのでは残念だと思います。
明治時代の日本は欧州のビッグスリーだったドイツ、フランス、イギリスのような国を目指し、「脱亜入欧」を掲げていましたが、これからの時代は「脱米入欧」を目指すべきだと思っています。アメリカは非常に大きな国で、人口も日本の倍以上あり、全世界を圧倒するほどの軍事力も持っています。日本と違って天然資源も豊富です。これほど似ていない国と同じ戦略、国づくりで成功するとしたら奇跡としか言いようがありません。一方、欧州には日本と同規模の国がたくさんあります。日本と同じぐらい長い歴史と伝統を持っています。だからこそもう少し欧州に目を向けた方がいいと思うのです。
教育水準の高い欧州の経済成長に期待
みなさんからいただいた質問のなかに、「欧州出身者から見た欧州の新興国の最新情報を教えて下さい」というのがありました。欧州の新興国と言えば、僕の故郷のハンガリーもその一国です。ハンガリーは2004年にEUに加盟しました。同じ年にはバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やチェコ、ポーランドなども加盟し、高い経済成長を遂げました。
ある経済学者が「経済成長を左右するのは国民の教育水準」と言っていました。ハンガリーを含めた新興国の経済が成長している背景には、教育水準の高さがあると思います。バルト三国などは義務教育の期間が長く、その間お金はかかりません。ハンガリーも厳しい入学試験がある半面、教育費はかかりませんでした。こうした環境のもと、東ヨーロッパの国々の教育水準はかなり高く、質の高い労働力があります。ハンガリーに最初に自動車工場をつくったのは日本のスズキ自動車でした。共産主義時代の1987、88年から本格的な生産を始め、今でもまだそこでかなりの台数を生産しています。その後も西ヨーロッパの企業の多くは、東ヨーロッパへ直接投資したり、生産を進めています。
私の国籍のあるフランスも幼稚園から大学まで国が費用を出してくれて、さらに学校の授業で使うノートやペン、ハサミなどもすべて国から無料で支給されるほどです。僕も博士号を取るためにフランスの大学に1年間通いましたが、かかったお金はたったの100フラン(当時のレートで6,000円)、しかもそのお金は医療保険に加入するための費用でした。
もうひとつは欧州の風土。いま、ブルガリアとフランスの生活水準を比べると、かなりの差があります。もちろん新興国の労働力が安いという理由もあります。欧州の考え方では貧富の差があることは好まれないので、その差を縮めるために西側諸国が投資することで東側の経済は急速に成長しています。
一度経済発展の軌道に乗ると余程のことがない限り、その勢いは続きます。例えば、タイは東南アジアで最初に経済発展を遂げた国で、日本企業もかなり進出しました。その後、ベトナムやマレーシアなどに投資先をシフトしました。しかし、タイの経済成長はストップしたわけではありません。かつてほどの勢いはなくなりましたが、順調に経済は成長しています。欧州の新興国の経済成長もしばらく続くのではないでしょうか。
もうひとつの質問は「欧州の人はアメリカ人のように財テクに熱心なのでしょうか?」。僕を例にすると、以前は自分で株を購入していましたが、いまは直接買わないようにしています。完璧主義者なので、一番高いときに売って、一番安いときに買わないと気が済まないからです。自分で選んでいた頃は毎日、株の値動きが気になって仕方ありませんでした。それならば専門家に任せた方が気分的に楽なので、今は自分では直接買わないようにしています。
欧州の人も僕と同じような感じで資産運用をしています。ファンドを買い、直接の運用は専門家に任せている、株に投資する場合でも長期保有目的でインカムゲインを享受するという感じです。その他、僕自身はかつて不動産にも投資したりしていましたが、「吾唯足るを知る(われ、ただ、たるをしる)(*)」のように、いまはユーロやオーストラリアドル、ニュージーランドドルなど、利息を期待できるものにそれなりの金額を投資している程度です。
(*)「知足の者は貧しといえども富めり、不知足のものは富めりといえども貧し」という禅の格言に由来するもので、満足する(たる)ことを知っている者は貧しくても幸せであり、満足することを知らない者は金持ちでも不幸である。」という意味である。
ほかにも今後の欧州経済の行方について質問がありました。僕の個人的な意見としてはこれからも欧州経済は伸びていくと思っています。欧州は長い伝統と歴史を持ち、教育水準も高く、質の高い労働力を誇っているからです。また、世界で一番環境問題に関心が高いという点も、欧州が今後も伸びると思う理由です。ドイツには環境問題などに関心の高い「緑の党」があり、長い間政権政党のひとつを担ってきました。環境にやさしい商品などの開発も盛んなので、ますます注目される地域になると思われます。


